モロクボ沢に沿った左岸の林道を歩き、右岸に渡る橋の手前で堰堤をこえて沢に
入った。
雷木沢の出合は堰堤上の平坦な疎林の中に小さな流れで出合っている。
出合の両側の山も小尾根状で、奥が切れ込んでいる風には見えない。
「オイ、本当にここかよ」なぞと皆で半信半疑で入っていく。
すぐ低い堰堤が現れ「雷木沢」のプレートが取り付けてある。
「オッ、やっぱりここだ」と納得。すぐ右岸に山道が伸びている。
しっかりした道で仕事道なのだろうか。
この道を沢沿いに少し登ると道は左に折れ、沢の流れとは逆の山腹に登ってゆく。
この道の下から滑が始まるので沢に下り立つ。
9月になって戻ってきた残暑の中、滑の流れの水が足に心良い。
滑は浅いＵ字状の沢底の中を半月状に右上に伸び上がるように続いている。
朝の光が樹冠をとおして滑を煌めかせ、思わず「イイナー」の声が出る。
滑は断続して100m程続き、その先滑が突きあたるような唐突さで滝が出てきた。
15m程の高さだろうか。この沢を紹介していたマシラさんのHP（マシラの部屋）
の記録では12mとあったが、もう少し高そうだ。一見大まかで易しそうだがよく見る
と左、右とも下部の上が難しそうだ。流水をはさんだ右はランぺに登るところが何
もなく、左は下部緩斜面が垂直に2m程立ち上がる部分が脆そうである。
取付きをめぐって少しあれこれと話すが、最後はリードする芹の判断にまかせる事
になる。
残置ハーケン類は見当たらず、滝の途中に登られた形跡はない。
巻くのなら滝の右手の一枚岩の大きなスラブ壁か、その奥のルンゼ状から巻けそう
だ。滝の上部は晩夏の朝の光を浴び石英閃緑岩の白と滝の水飛沫がキラキラ輝いて
いる。日の届かない薄暗い基部に立った芹がザイルを結び、北嶋のビレーで滝上部
の光を目指すべく左手のルートに取り付く。
下部緩斜面を5m程登り、2m程の垂壁下でハーケンを打ち、その垂壁に取付くがここ
がポイントで難しそうだ。垂壁は浅い凹角状でハーケンがなかなか決まらず苦戦。
一本打ち込むが不安そうでもう一本その近くに叩き込む。これで意を決して芹は越
していった。
その上は少し斜度が落ちたなか、水流に寄ってゆく。
水流を嫌うと2m程の段差になっており、その段差を左から越す前にハーケンをもう
一本。
その上は落口からの水が日射しに輝き一枚の白い布のように勢いよく落ちている。
芹は少し躊躇った後、流されないよう慎重に水流を突破。
滝の下から見上げているうちに、芹はもう落口の下まで達している。
頭上は青空を下地にした緑の木々。
下は薄暗い滝とはだれの木漏れ日。
その中を左の水流、正面の岩、右手の白いスラブとそれぞれを暫く見やった後、芹
は舞台の役者のように白いスラブを攀じて滝の落口に立った。
少し腹が出てしまったとはいえ、芹もまだまだやるぜ、と改めて思ってしまった。
芹の「オーレッ」の声に続いて増田が取り付く。
下部のスラブは問題なく、芹がハーケンを２本叩き込んだところがポイントで、増
田は躊躇った後シュリンゲをアブミにしてやっと越す。
後はほぼ問題なく登っていった。
続いて北嶋が登り、最後に花岡がラストで回収しながら登る。
北嶋は使わずに登ったシュリンゲのアブミの部分はやはり難しく、花岡も使ってや
っと越す。
F1の落口に立つとF2がすぐ目の前に立ちあがっており約6m位の高さだろうか。
この滝は左手が乾いてフリクションが利き、ガッチリしたホールドがあるのでザイ
ルを出さずに越して越してゆく。
F2を越すとF3が２段幅広のスラブ滝となって落ち込んでいる。
左にL字形のコーナーをもった滝で、水流はそのコーナーに沿ってなめらかに流れ
ている。
L字に縦にのびる岩には左横に30〜40cmのクラックが上に向いて口をあけている。
見た目には下段15m、上段10m位か。
ここは久々にリードしてみよう、と花岡がトップに立つ。
滝の右手の大まかな岩場を巻きかけていた増田が巻くのを止めて下に降りてくる。
北嶋にビレイを頼み、L字コーナーの接点を狙って取り付く。
左はL字の壁、接点とその右は水流。
その水流のスラブをルートに取る。
3m程登り、支点を作ろうとするがハーケンが打てそうもなく、ロックスも咬ませれ
そうもない。フレンズなら、という大き目のクラックがあるが残念ながらもってな
いのでクラックに詰まったチョックストーンにシュリンゲをかけてクリア。
ホッとしたもののスラブはツルツルで登れず、L字コーナーの壁の岩の上下を手を
いっぱいに広げて掴み、やっとそこを抜ける。
しかしその抜けたところにも支点用のリスがなく、大きなクラックの上に走る細め
のクラックにロックスを咬まし支点にして凌ぐ。
その上は少し傾斜も落ち、フリクションも利いて中段に立つ。
もうザイルは20m位延びているがこれといったビレー点もなく、中段からさらにス
ラブを登る。
上段のスラブは低い壁に突き当たるようにして終わっていた。
ここで壁ぎわの立木を利用してピッチを切る。ザイルは30mは延ばしている。
傾斜はそれ程でもないが下からの見た目より随分高さの有る滝だ。
この滝の水流はビレー点からみて左岸方向の落口をさらに左岸奥に延びてゆき、右
に傾いたスラブの左端を3m位の滝が２個、上流に巡らされている。
「いくぞ」の声で増田が少し手古摺りながら続き、さらに北嶋、芹が登ってきた。
F3を登った後、奥に向かって２個続きのスラブの滝を越えるとすぐに25mの滝が
目に飛び込んでくる。
滝の下に立ち「これは登れそうもないな」と皆で腰をおろし休憩をかねて見上げる。
この滝は中段上部まで登れても上部3分の1が垂直でボルトでも埋めなければ登れそ
うもない。
これ程の滝なのに滝の下が変に明るい。
雷木沢のこの連瀑は、深く山肌を穿つことなく滝となって落ちているのだ。
その為、滝周辺の立木も滝を大きく覆う事がなく、日射しが滝だけを落口から滝壷
まで白く浮びあがらせている。
滝の風に吹かれ、白い岩肌を眺めながら行動食を口にする。
あれこれ話したが衆議一決。滝左手のルンゼ状から巻く事にする。
木漏れ日の中、潅木を頼りに少し登り、途中より滝身に寄って滝を覗くと中段上部
まで登れても、その上3分の1がノッペリして支点が取れそうもない。
やはり巻くしかなかったか、と変に納得。
花岡が左手のザレた斜面にザイルを延ばし、芹が藪をこいで頭上の岩壁基部のバン
ドを採る。
芹がバンドを使っていけるというので花岡は懸垂で戻りバンドの先に集まる。
バンドは滝の落口上に3m位の壁でストンと落ちている。
立木を利用してビレイをとり芹が懸垂で上流に少し振って下る。
着地点は落口まで1m位のところで、さらに落口の先は滝下まで25mの空間である。
増田、北嶋が続き、花岡も上流でビレイをとってもらい、振子懸垂で下った。
降り立った岩床は狭いゴルジュになっており、水流は樋状をひと筋になって一気に
滝となって落下している。
落口から10m程上流でビレイしていた芹のまわりに集まり、ザイルを畳みながら
「それにしても一気呵成の連瀑でこれほどの滝が本当に登られた跡がないのも不思
議だな」と話すが、丹沢も奥が深いものである。
この滝の上は少し平凡になり、穏やかな岩床の上を皆でのんびり進む。
左に一本支流を覗く。10mほどのスラブ滝がかかっていた。本流に戻り岩床を進む
ともう一本左手から支流。
さらに滑の小滝を越えてゆくと３連の滝が出てきた。３段ではなく、３連である。
少し間があるのだ。手前の一段目の滝は緩い傾斜の樋状の滝。
4m位で本を90度に開いたような滝だ。
流れの中に足を置きフリクションで越す。
２段目が6m程のツルツルの滝。右から巻けるが芹を始めに皆が真中の水流沿いを交
互にトライするが難しい。最後に北嶋がワンポイントの人の手スタンスを利用して
越してゆく。
３段目は幅広の２段10mの滝である。増田がザイルを結び、滝中央水流の右に取
り付く。下段は6m位でその上部にハーケンを打ち、被り気味の岩を越して中間バン
ドに立つ。
しかしそこで支点が取れない。
上部は細かいホールドしかなさそうで、支点なしではこわくてトライ出来そうもな
い。増田はさんざん支点を作るべく手をつくすがお手上げで、花岡が右手の岩を巻
き登りお助け紐を垂らしてクリアする。見た目以上に難しい滝だった。
この３連瀑の上から沢筋はゴーロ状の部分が出てきだす。
ただこの雷木沢は、本当は１本の岩床のスラブで形成された沢なのではないだろう
か。ゴーロの岩を取り除くとそこは全て岩床になっているような気がする。
倒木に覆われた5m位の滝を越すと岩積み堰堤状の8m滝。
まん中が挟まれたように窪んでおり、水を落としている。
スタンス、ホールドは豊富で少しシャワーを浴びながら中央を登る。
この滝の上からゴーロ状が増えて沢筋を覆うようになり、源流の様相になってき
た。一休みをして水を汲む。
傾斜が急になりゴーロ状の沢筋のすぐ左脇に大岩。
ここを過ぎると小滝が２個あるが沢は浅くなり、不鮮明な三ツ俣状になる。
本流状に見える真中を選び、少し登ると再び木立ちの中不鮮明な三ツ俣状になった。
ここも本流風の真中を選ぶ。すでに沢形はなく、浅い窪の山腹に取り付いている感じ
だ。
傾斜が増して左手の小尾根に逃げ、山毛欅の間の篠竹を分けるようになる。
尾根の左手は水晶沢だろうか、割と深く落ち込んでいる。
獣道より立派な感じの踏跡を拾い、暫くすると尾根道に出た。
道志側は檜の植林。山北側は山毛欅の自然林だ。
右に登るとすぐに水晶沢の頭に出た。
山毛欅の立木に囲まれた水晶沢の頭は明るく、涼しい風が石棚山稜方向から吹き
抜け、心良い。さきほどまでの藪を漕ぐ暑苦しい獣道の急登が嘘のように思える。
お茶を沸かし、行動食を口に連瀑帯を話題にして心楽しいひとときを過ごす。
後は下山だ。
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